古賀春江資料室

洋画家・古賀春江(1895-1933)のデータベースを制作中です。

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円筒形の画像(宇宙の爪、古き窓、晩餐、直線の如きもの、点景)

     宇宙の爪

酒場の花粉の中の紳士は十九世紀のお伽噺に感激的な身振をしてゐる
彼は挨拶する
また健康で明朗なる観念の持主である所の地球を抱いて茛を喫ふ
植物採集家は枝振りのよい光沢の強い円柱の囲りを飛ぶ蝶等の斑紋を計算したり
彼の長靴に踏みつけられた蛙に就いて思考する
死んだ馬は決して純粋であつたといふことは出来ないかも知れない
死は薔薇の花の如く古典的である
それは又認識の集積に火をつける
神秘主義詩人の眼鏡はそこでどうなるのかといふ斯くの如き認識体の一つのサンプルであつた
隻脚を挙げた彼の採集網は如何に聡明を表はしてゐても
文明の世界よ
白い条の入つた地球は夢の深い夜かも知れない
機械はしかし廻転するのだ
たとへ髪の毛の如き扮装の金魚が演技の最中でも
植物採集家・彼は親愛な地球を抱いて体温表を注視する


     古き窓

諸君は麦酒瓶の口から這ひ込んで行つたことがあるか
諸君は其所で感じたに相違ない
限りなき真実と
大きな環を持つた熱気とを
靴を穿いた男はその時暑い/\と言つた
写真師が来てフリージヤを上げませうと言つた
写真師はむろん眠つてゐるのだらう
向ふの方に燈火がついてゐるではないか
そこまで理髪館の中庭の小径で両側に鈴懸が並列してゐた
理髪館の鏡の中では諸君も馬に乗つて脚をあげるか
あんな習慣は不思議に美しい鬘に似てゐる
一寸頭に乗せて見たいだらう
パラソルを挿した金魚だつて鬘の帽子を被つたのが居る
随分遠くまで歩いたと思ふだらう
そこでのすたるぢあにかゝつたら
匂ひのよい麦酒でも飲み給へ


     晩餐

僕は五重の塔を見たいのである
素敵に蒼い五重の塔を見たいのである

空気が孤独に素早く虹色に映る景色で

僕はてつぽうを持つてゐないのである


     直線の如きもの

一つの発想は透明な波に乗る
電線にかゝる一つの魚
魚は無限に飛躍する
太陽は満開の花苑
魚は彼の線路を昇る


     円筒形の画像

白い街角に注意深く鉛筆を置いてゐる紳士は純粋であるか
光は無意識の紳士を包む
あゝ僕は僕の咽喉を以てガラス鉢の墜落の音を立てたい
彼は有限の精神を以て燻製の満月をあまりに喫べたから
しからば人間は八角形立方体の運動が可能であるか
おゝ! 親友雲型定規の脚よ
凡ゆる顔の中の重量のない妖精よ
浴槽の煙突から逆さまに出てゐる貴婦人の脚を見ないか


     点景

いつぱい繁つた青葉の窓から
あなたの丸い顔が出る
ふぢいろの顔

遠い商館の空に旗がある



初出:『みづゑ』296号(1929年10月)pp.10-11
底本:古賀春江文集『写実と空想』(中央公論美術出版)p.105-109
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  1. 2010/06/21(月) 18:00:00|
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