古賀春江資料室

洋画家・古賀春江(1895-1933)のデータベースを制作中です。

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極めて鮮明なる文明の縞(歓喜と欲望の定規、游泳する腕の眼鏡、爪)

     極めて鮮明なる文明の縞

ブレーメン号
快速二十七ノツト
二つの機関室のタービン
青銅製の四個のプロペラー一個の重量十七トン
一時間の海水使用量三万二千トン
船内の清浄なプール
船客三千人。

優美な電話のある機械の花等
丸い花の雨
白い肉体が沈む。

「胸の扁平は文化に比例する」
アメリカの耐久ダンスで四百五十時間踊り抜いた男女があります

何人《なにびと》が煙の中で香料を拵らへるか。

鵞鳥と馬の写真を撮つて
体内の温度を検べて見ます
それは壮厳なる截断機の刃である
太陽とも空想ともつかない精神の壁で
歪んだ衣裳の日向葵は
曲つた固い海の風に吹かれる。

甜菜 含有性分から水分七五%を蒸発さすれば残りの二五%は糖分と灰分である。

宿命と認識の緩慢な速度
成長する仙人掌の夢想
けれども時間は肩の上にはない
窪むカブトムシの脚
最初の完全な数理。

見失はれた鉛の信号
みんなは昆虫になりたいと思ふ。

風車のやうに廻る海洋を蔽ふて
最早睡眠の薄明が来た
出発は右手に大熊星を持つて
三角形の機関は活動する
雪の降り出してゐる薄明の海に
射撃を開始し給へ。


     歓喜と欲望の定規

砂の一つ一つに温まりがあつた
手はのび/\とすなほに砂を掬つた
砂は掌の上から昇華した
星が一時に数万も増した
草は濡れて
然し小鳥等の卵は鈍く光つてお互の眼を見合せて微笑してゐた
黒い水が脚下を洗つた
地球は何か遠い所から見知らぬ所へ来たやうであつた
遙か上方へ輝くものが見えた
純白の思想
黒い夜の中に凡てのものがあつた
花粉のやうに凡てのものが匂つて散つた
海藻の間から眼をかゞやかし
黒い夜の海辺の波打際で
釈迦は涅槃を見た。


     游泳する腕の眼鏡

午前零時の街の上の口笛
塩辛い羽のある針が動く
縞の蝶は橋下の魚の光を喰べる
何故に確信を以て人等は街上を歩くか
人等はそれを知る
蝶がそれを見る
薄い水に浮き上つて
水すましは美しい
凡ての終りはみんな美しいのであるか
彼等は恐るべきです
学者は実に純白なシーツの上に坐つて本を読む
彼が如何なる煙草を信じてゐるかは誰も知らないのである
測度計の中の水さへ重さに曲る
太古の警戒と老齢は醗酵するであらうか
凡ては巡環しても筒の中では帽子を被れない
鼻の中の顔
忠実なる双眼
振動する遠い唇
これには視覚以外に立つ不可視的放射線を用ゐます
即ち紫外線を捨てゝスペクトルムの反対の端の赤外線が試みられるのです
対者は遠くから泣けるのです
過ぎてゆく時間を帽子で伏せて
私は高い塔の上から
手を挙げて挨拶してゐるのに。


     

  一、
潜水夫は引き上げられた
感覚の座席は何処だ
空想は孤独である
誤謬
誤謬の後の誤謬。

  二、
片方の脚が痛み出した
彼は脚の痛む箇所を揉んだ
彼は役に立たなくなつた脚を大切にした。

  三、
雲を見てゐる
冷い沸騰する都会の空で
折監される娘
真黒い涙の川の中に浮く顔。

  四、
名刺が燃える
高名なる名士になる
電柱の上に電信工夫はゐる。



初出:『みづゑ』307号(1930年9月)pp.9-11
底本:古賀春江文集『写実と空想』(中央公論美術出版)p.111-117
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  1. 2010/06/24(木) 18:00:00|
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