古賀春江資料室

洋画家・古賀春江(1895-1933)のデータベースを制作中です。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

『鶏小屋』に就て

 遠藤清子さん達と巣鴨の郊外を散歩しました。晩夏の太陽は野原一面に降る様に注いで、畑の中の赤土道はゆるい起伏をなして曲り逶《くね》りながら向ふの森まで続いてゐました。その道の消え入る感じは淋しい美しい憂欝を感じさせるものでした。小さな流れが涼しく樹蔭に光つてゐる所へ来たら、清子さん達は下りて行つて浴衣の裾を軽く摘んで流れの中に入りました。「あなたもお這入りなさいナ。」水は綺麗でしたが私は樹蔭を洩れる陽の光がチラ/\水面や人物に斑点を作るのを堤の芝生の上に踞んで頬杖をつきながら見てゐました。雞小屋はその帰り道に立ち寄つた農家の庭の一隅です。農家といつてもそこの主人は、以前或る宗教の学校に入つてゐたとか云ふ人で、色の白いおとなしさうな人でした。庭に面した書斎には背皮の金文字の部厚な書籍などが積んでありました。その庭の白い雞の群れが描きたくてその翌日私は其所へ出掛けました。画架を据えると雞は驚いて遠くへ逃げその変りに七面鳥が私の前へ集つて来て羽をひろげました。
「七面鳥が怒つてゐるのですよ。」若い其処の主人は笑ひ乍ら言ひました。私は「白い温和な群れ」の変りに「怒つた黒い連中」を描かねばならなくなりました。それでも暫くしたら雞の方も大分馴れたらしく前の方へ出て来ました。日の暮れ方まで描きましたが出来上つた画の中に、雞の群れは得ましたけれど狙つたものは逸して終ひました。



初出:『みづゑ』171号(1919年5月)p.30
底本:古賀春江文集『写実と空想』(中央公論美術出版)p.167-168
関連記事
  1. 2013/12/24(火) 23:28:31|
  2. 評論・随筆等
  3. | コメント:0
<<樹立 (〇・七〇×〇・五〇尺) 一九二七年 | ホーム | 《梧桐》>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。