古賀春江資料室

洋画家・古賀春江(1895-1933)のデータベースを制作中です。

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製作

純粋な理念は純粋な行為であつた
私は昨日死んだのだ
埃のために汚れた太陽も今洗滌しなければならない
凡ての価値が両側の鳩のやうに落ちて
しかし精神がある限りそれは色づけられては見られない

儚ない夢のはぎとられた時
時間が見合をはじめる
純粋の死人の魂の暖い手に抱かれて
私はその室から街へ歩き出す

いつもいつも通る街で
淋しい白い風が吹いてゐる
月の雫の花の上で
今日も少女は美しい裸の両脚を
七階の室の窓から外気に曝して
なよやかなX形に組み合せてゐる

理性の生理があんなに正確に行為されたのに
またも彼女は蒼白の死星を無数に産んだ
七ツの海の七ツの星

漂渺とした思惟の時間を
涙ながら微笑して
刎ね返さうとして美しい脚を崩すのです

青い青い地球の外側では
疲れた太陽が木の葉の上で休息し
明暗の遠い曲り角で
梟達は忘れた昔の歌を啼く

深い底で潔い世界の夢幻燈を
ガラスの壁が包んで
当為の世界を作る時
彼女の胎動は始まるが
あゝ 何時もそれは過去であつた

華やかな現象の中を
限りない途に降り出て
人間の言葉を交しても
その雑音の煙の影で
耳と眼は遠い幻を追ふばかり

毎日七階の窓は高かつた
愛する彼女の豊麗な脚
澄み切つた泉のやうな眸
私は彼女の甘酸つぱい肌の匂ひを知つてゐる
今私は零の時間を急いで
彼女の凡てのよろこびのために
造花の花束を送る筈だが
生きた花束で代用しよう

   (一九三三)



初出:詩画集『古賀春江』(1934年9月、春鳥会)
底本:古賀春江文集『写実と空想』(中央公論美術出版)p.147-150
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  1. 2010/08/09(月) 18:00:00|
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