古賀春江資料室

洋画家・古賀春江(1895-1933)のデータベースを制作中です。

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銀色の審美学(海辺風景、少年の願望、点景)

     銀色の審美学

紫外光線は完全に作用を停止して終つた
花束のない煙幕はしかし静思する術を知らなかつた。

   長い頸を持つた白鳥
   長い頸と長い脚を持つた白鳥

   煙幕の顔に乗る少女の靴下
   緑色の翼を持つた小女の唇

   一つの理念を滑走する赤色球
   一つの理念を滑走する白色球

   (午後3時のリボン)

   上昇しまた下降する渦巻曲線
   蝙蝠の飛んでゐる青色水兵

   限りなき発行体の貝殻は
   人類の消化器官であつた。


     海辺風景

硝子鉢の中の金魚
遙かなる遠景を切断する煙突
  黒い軍艦
  黒い軍艦の黒い煙突
  それは防波堤の食慾であつた。

白色海洋気象台の窓は多彩の空気に流される
靴は窓の中を昇る
塔の上の蝶は空気の感傷を拒絶する
真珠色の魚は繊美なる幻燈を映す
歯車の頂上に止まる風は鷗の物語を着色する
  風は白い円卓を水色に包む
  それ故に二本のしなやかな脚は平面を切る
  電線に引かかつた泥人形で
  斯くの如き高熱度の波を知らなかつた。

桃色の電燈は開かれた。パラソルを差し上げる
華奢な指先は無限に微動する
──流れる魚の眼
モーターサイクルの飛行と砂上の林檎は哀愁の実写であつた。
月は凡ての精霊の餌食となり凡ての情熱を喰ふ
海上の赤犬は合成金属の如く正義者である
気象台の窓をシヤボン玉は這ふ
  黒い軍艦
  黒い軍艦の黒い煙突
  それは海辺の魔術であつた。


     少年の願望

白い平面
白い平面に立つ白い円筒
  白い円筒
  平面に立つ

赤い垂直線
中央を切る赤い水平線

球・球・球・
大なる球・中位の球・小なる球・
  黒い球・黒い球・黒い球・

リボンをつけた靴
平面を計算する靴

蝶の花粉
紫の花粉、花粉、花粉


     点景

あなたは赤い帽子を被る
あなたはゴム風船の中に坐る

一枚の白い皿
皿の上の桜桃

銀色の地平線
私の手袋に触つてはいけない

時間はあなたの薄紫の眼
それは文明的な帆前船です

アルバムを繰りませう
月はなかなか出ませんね。



初出:『みづゑ』289号(1929年3月)pp.18-19
底本:古賀春江文集『写実と空想』(中央公論美術出版)p.99-104
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  1. 2014/09/11(木) 22:40:52|
  2. | コメント:0
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